手漉き和紙と機械漉き和紙は何が違うのか

――繊維の重なり方と脱水・乾燥から考える

How Handmade and Machine-Made Washi Differ: Fibre Structure, Dewatering, and Drying

English Summary

Handmade washi and machine-made Japanese paper differ fundamentally in the way fibres are formed into sheets and consolidated during dewatering and drying. Nagashizuki, the traditional Japanese flowing sheet-forming method, builds a sheet through repeated thin layers of fibres and tends to preserve bulk, flexibility, and the visible character of the raw material. Machine papermaking, by contrast, forms paper continuously and controls density, uniformity, dimensional stability, and surface properties through pressing and cylinder drying. These are not simply opposing methods, but different approaches to designing the internal structure and performance of paper.

はじめに

和紙には「手漉き和紙」と「機械漉き和紙」があります。一般には、人の手で漉いたものが手漉き、機械でつくったものが機械漉きと理解されがちです。しかし、紙質の違いはそれだけでは説明できません。

本当に大きな違いは、紙の中で繊維がどのように並び、どのように重なり、脱水や乾燥の過程でどの程度まで締められるかにあります。つまり、手漉き和紙と機械漉き和紙の違いは、紙の表面だけでなく、紙の内部構造の違いとして見る必要があります。

さらに大切なのは、使用する植物繊維の個性をどのように生かすかということです。楮、三椏、雁皮など、それぞれの繊維には長さ、太さ、光沢、粘り、柔らかさなどの特徴があります。手漉きであっても機械漉きであっても、その繊維の持ち味を紙の中に生かし、用途にふさわしい紙に仕上げることが、紙漉きの大切な役割だと考えています。

本稿では、手漉き和紙に発達した流し漉きと、機械漉きにおける連続抄紙との構造的な違いを整理します。さらに、脱水・乾燥工程が紙の嵩、密度、柔軟性、表面性状にどのような影響を与えるのかについて考えます。

なお、本稿でいう手漉き和紙とは、伝統的な原料処理を行い、流し漉きによって抄造した紙を指します。一方、機械漉き和紙については、明治期に導入された抄紙機の流れを受け継ぎ、戦後に高知県で改良された懸垂式短網抄紙機による和紙を主な対象とします。

表1 手漉き和紙と機械漉き和紙(懸垂式短網抄紙機)の構造的差異

項目手漉き和紙機械漉き和紙顕在化する違い
原料の処理方法伝統的な(明治期以前の技法)技法で繊維に優しい処理工程を行うある程度多量に生産をするために化学薬品や機械化が必要手漉きは手作業が多く残る、機械漉きは安定生産と品質管理を重視する
紙層の形成粘剤を用い、紙料を数回汲み込んで繊維層を重ねる流し漉きが基本連続的に紙料を供給し、網上で一回の成層を行う。溜漉き風。手漉きは「層を重ねる紙」、機械漉きは「連続的に成形する紙」
繊維の配列簀桁の揺る方法により縦横に繊維が分散して、四方に配列して絡み合う抄紙機の流れ方向に繊維が配列しやすく、方向性が出やすい。手漉きは方向性が少なく、機械漉きは流れ目が出やすい
多層化流し漉きは原料の汲み込みを反復、繰り替えして紙層を多層化して紙の厚みと強度が生まれる基本的には連続した一回の成層であるが、円網、短網のコンビネーションマシ
ンにより多層化も可能
手漉きは嵩高く柔らかい、機械漉きは薄く締まりやすい
地合い      漉き手の操作、紙料濃度、粘剤、原料の状態
によって、一枚ごとに微妙な個人技の表情や変化が生じる。
流量、濃度、速度、脱水条件を管理することで、均一な地合いを安定して
得やすい。ただし、楮などの長繊維は地合が不安定になる。
手漉きは個性、機械漉きは均一性が現れる
脱水方法紙床に積み、自然排水後に天秤・梃子・ジャッキ等で比較的緩やかに時間を掛けて圧搾する 繊維間の空隙が比較的残りやすく嵩高い紙になる真空脱水、サクションロール、プレス ロールにより連続的かつ短時間に紙層に加圧しながら脱水する強いプレスニップにより紙層が緻密化
やすい
紙床に残る粘剤の影響がある。
乾燥天候に左右されるが板干し、天日乾燥などでは12〜15%前後の含水率になる。紙の嵩や繊維の表情を残しやすい。ドライヤーシリンダーへの接触乾燥。短時間で絶乾状態(2〜3%、1週間後には8〜10%)に近い含水率になる。
ドライヤープレス圧で平滑化・低嵩化が進みやすい
手漉き和紙は紙の水分率が高く、機械漉きは低い。
表面性原料繊維の表情、簀目、乾燥板の状態などが紙面に現れやすい。平滑性、均一性、印刷適性、加工適性を得やすい。必要に応じてカレンダー処理などで表面を整えられる。手漉きは素材感、機械漉きは加工適性が出やすい
吸水・浸透性繊維の種類によることが多いが、繊維間空隙や地合いにより、墨、染料、顔料、版画インクなどを紙層内部へ受け止めやすい。表面処理や密度の調整により、吸水性、にじみ、印刷インキの定着を用途別に設計しやすい。手漉きは自然な浸透があり時間経過により「紙が枯れる」、機械漉きは設計された吸水性・寸法安定性を保ちやすい
強度の現れ方長繊維の絡み合いと比較的低い圧密化により、軽さに比して高い引裂抵抗や柔軟性を示しやすい。楮などの繊維本来の強度に影響される。繊維本来の強度を表そうとすると伝統的な手漉き製造と同等の原料処理工程が必要であるどちらも繊維本来の強度が大事、
生産性一枚ずつ、または限られた量を丁寧に製造するため、生産量は限定される。連続抄紙により、大量生産と安定供給が可能である。 
品質の考え方漉き手の経験、原料の見極めへの対応が品質を左右する。数値管理により再現性を高める手漉きは技能依存、機械漉きは工程管理依存
主な価値繊維の表情、地合い、柔軟性、嵩、手仕事による個性、文化的・工芸的価値が評価される。均一性、再現性、量産性、規格性、印刷・加工への適性、安定供給を要求される。手漉き紙より安価にできる。手漉きは作品性・保存性、機械漉きは実用性・供給性
主な用途書画用紙、版画用紙、表具、修復、工芸、料紙、保存用紙、作品制作。印刷用紙、包装紙、障子紙、壁紙、インクジェット用紙、加工紙、量産製品。 

ただし、これらはあくまで一般的な傾向であり、実際の紙質は、原料配合、叩解度、粘剤、圧搾、乾燥、表面処理、用途設計によって大きく変化します。手漉き紙にも緻密で平滑な紙があり、機械漉き紙にも嵩高く柔らかな紙があります。

したがって、手漉き和紙と機械漉き和紙の違いは、単純に「手漉きだから良い」「機械漉きだから均一」というように分けられるものではありません。大切なのは、それぞれの製法が、紙の内部構造にどのような特徴をもたらすかを見ることです。

表1に示したように、両者の差異は大きく二点に整理できます。第一は、紙層形成時における繊維配列と積層の違いです。第二は、脱水・乾燥時に紙層へ加わる圧力と、それによって生じる圧密化の違いです。以下では、この二点について、製造工程と紙質との関係から検討します。

1.紙層形成方式の差異

手漉き紙は、古くは溜め漉きに近い方法によって製造されていたと考えられます。溜め漉きでは、漉桁に紙料を一度に汲み込み、簀面上で繊維を分散させながら脱水し、一枚の紙層を形成します。この方式では、紙料の流れに沿って繊維が配列しやすく、紙の縦方向と横方向で性質に差が生じやすい傾向があります。

これに対し、日本では粘剤の利用によって、紙料中の繊維を緩やかに分散・懸濁させる技術が発達しました。粘剤を加えた紙料を漉桁で繰り返し汲み込み、前後左右に揺り動かしながら余水を捨てる流し漉きは、この技術的条件の上に成立したものです。

流し漉きでは、薄い繊維層を何度も重ねるように紙層を形成します。そのため、繊維は単純に一方向へ並ぶのではなく、縦横の両方向に分散しながら絡み合いやすくなります。この繊維の重なりと絡み合いが、手漉き和紙のしなやかさや強さにつながります。

したがって、流し漉きでつくられた紙は、薄い紙であっても比較的高い引裂抵抗や柔軟性を示しやすいと考えられます。特に楮のような長繊維原料を用いる場合、繊維が紙層内部で立体的に絡み合うことにより、軽さに比して強い紙をつくることができます。

一方、機械漉き和紙では、原料液はヘッドボックス、またはバスケットチェスト等から一定量ずつ連続的に供給され、移動する金網上で脱水されます。紙料の供給と脱水が連続して行われるため、紙層は基本的に一回の成層過程によって形成されます。この点で、機械漉きは、複数回の汲み込みと捨水を反復する流し漉きよりも、構造的には溜め漉きに近い性格を持っているといえます。

機械漉きにおいても、複数の網部を直列に配置し、複数の紙層を形成するコンビネーションマシンがあります。これは、複数の紙層を重ねて厚紙や特殊紙を製造するための方式であり、流し漉きの反復成層に一定程度対応するものと見ることもできます。しかし、それぞれの層は連続する網上で形成されるため、紙料の流れ方向に繊維が配列しやすいという基本的な性格は残ります。 このため、一般に機械漉き紙では、抄紙方向と幅方向との間で、引張強さ、伸び、引裂き、吸水、寸法変化などに差が現れやすくなります。これに対し、流し漉き和紙では、漉桁の操作によって縦横双方に繊維を配分することができ、用途に応じて繊維の配列を調整できる点に特徴があります。

2.脱水・乾燥工程における圧密化の差異

手漉き紙と機械漉き紙の紙質差を考えるうえで、抄紙直後の湿紙をどのように脱水し、どの程度まで圧縮するかは非常に重要です。ここで生じる紙層の締まり方が、紙の嵩、柔らかさ、表面性、吸収性に大きな影響を与えます。

手漉き紙では、漉き上げた湿紙を紙床として積み重ね、自然排水を経た後に圧搾します。従来は、天秤式の圧搾機、梃子、ジャッキなどを用い、数時間をかけてゆっくりと脱水が行われてきました。これらの方法では、湿紙に加わる圧力は比較的緩やかであり、急激で高い圧力による圧縮は通常行われません。そのため、脱水後にも紙層内部には一定量の水分と空隙が残りやすくなります。

手漉き紙では、圧搾後の水分はおよそ65〜70%程度にとどまる場合が多く、その後、板干し、鉄板乾燥、天日乾燥、室内乾燥などによって水分を蒸発させます。圧搾段階で紙層を過度に押し潰さないこと、また乾燥板に貼り付ける際に植物繊維製の刷毛でやさしく撫で付けることにより、紙の表面に過度な局部圧を加えずに乾燥させることができます。

そのため、繊維間の空隙や立体的な絡み合いが比較的保持されます。このことが、手漉き紙に特有の軽さ、嵩高性、柔軟性、通気性、吸収性、そして温かみのある触感につながると考えられます。

これに対し、機械漉き紙では、網部で形成された湿紙がフェルトを介してプレス部へ移送され、真空脱水、サクションロール、プレスロール等によって連続的に脱水されます。プレス部では、紙はロール間のニップに挟まれ、短時間で強い局部圧力を受けます。

この工程は、単に水分を除去するだけではありません。繊維間の距離を縮め、紙層を緻密化し、繊維間結合を高める役割も持っています。つまり、機械漉き紙では、脱水の工程そのものが紙の密度や表面性を整える重要な工程になっています。

一般的な抄紙機では、湿紙はプレス部出口で繊維分約35〜55%程度、すなわち水分約45〜65%程度まで脱水されるとされます。紙種や機械構成によって差はありますが、手漉き紙の紙床圧搾と比較すると、機械漉きでは短時間に大きな圧力を加え、脱水と圧密化を同時に進めることが特徴です。

さらに、機械漉き紙はドライヤーシリンダーに接触させて乾燥されます。乾燥時には、湿紙はドライヤー面に保持され、タッチロールやフェルト等によってドライヤーに接触します。この過程でも紙層は平滑化され、嵩は低下しやすくなります。高いプレス圧とシリンダー乾燥の組み合わせは、紙の厚さを抑え、密度を高め、表面を均一化する方向に働きます。

3.紙質への影響

以上の二つの差異は、手漉き紙と機械漉き紙の質感や物性に直接反映されます。

手漉き紙は、流し漉きによる多層的な繊維の絡みと、比較的緩やかな圧搾・乾燥によって、繊維間に空隙を残しながら紙層を形成します。そのため、紙は嵩高く、柔らかく、折りや曲げに対してしなやかです。また、墨、顔料、版画インク、染料などを受け止める際にも、表面だけでなく紙層内部へ適度に浸透させる性質を持ちやすくなります。

機械漉き紙は、流れ方向への繊維配列、強いプレス脱水、連続乾燥によって、厚み、坪量、表面状態、寸法を安定させやすい紙です。その一方で、紙層は圧密化されやすく、嵩高性や繊維の立体的な表情は小さくなりやすい傾向があります。

しかし、これは欠点ではありません。印刷適性、加工適性、寸法安定性、大量供給に必要な均一性を得るためには、紙層を一定の密度に整え、表面を安定させることが合理的です。つまり、機械漉き紙は、用途に応じて紙質を設計し、安定して供給するための技術として発達してきたものです。 一方で、楮、三椏、雁皮などの植物繊維の個性をどのように紙に表すかという点では、手漉き紙にも機械漉き紙にも共通する課題があります。手漉きであっても、機械漉きであっても、原料処理、叩解、濃度、脱水、乾燥の条件によって、紙の表情は大きく変わります。紙づくりにおいて重要なのは、製法の違いを理解したうえで、その繊維にふさわしい紙質を引き出すことです。

おわりに

手漉き和紙と機械漉き和紙の根本的な違いは、第一に、紙層形成時における繊維配列と積層方法の違い、第二に、脱水・乾燥時に紙層へ加わる圧力と圧密化の程度の違いにあります。

手漉き紙では、粘剤を利用した流し漉きによって繊維を反復的に積層し、比較的緩やかな圧搾と乾燥によって繊維間の空隙を残します。これにより、薄くても強く、柔軟で嵩高い紙が生まれます。

機械漉き紙では、連続的な紙料供給と脱水によって紙層を形成し、プレスロールとドライヤーによって高い生産性と均一性を実現します。その過程で紙層は緻密化され、繊維方向性、密度、表面平滑性、寸法安定性が管理されます。

したがって、両者の違いは、「伝統技法と近代技術」の対立ではありません。むしろ、繊維をどのように配列させ、どの程度まで圧密化するかという、紙の内部構造をつくる技術思想の違いとして理解すべきものです。

機械漉き和紙の製造現場でも、繊維配列と圧密化が紙質を左右することは重要な設計課題です。特に楮などの長繊維を用いる紙では、手漉き和紙に見られる柔軟性や繊維の表情を、どこまで機械抄紙で実現できるかが大きなテーマになります。

ただし、機械漉き和紙が必ずしも手漉き和紙より劣るわけではありません。地元産の楮など良質な原料を用い、適切な煮熟、丁寧な塵取り、低濃度抄紙、穏やかなプレス、低温乾燥を組み合わせれば、柔軟性、嵩、繊維の表情、吸収性といった手漉き和紙に近い特性を備えた機械漉き和紙をつくることも可能です。

これは、手漉きと機械漉きの差が、機械の有無だけで決まるのではないことを示しています。大切なのは、植物繊維の個性を見極め、その繊維をどのように生かすかです。手漉きであっても機械漉きであっても、その繊維の持ち味を紙の中に表現することこそが、紙漉きの役割だと考えています。

参考文献

  1. 増田勝彦「正倉院文書料紙調査所見と現行の紙漉き技術との比較」
    宮内庁正倉院事務所紀要。溜め漉き・流し漉き・半流し漉きの概念整理、繊維配向の議論に有用です。 
  2. 久米康生『和紙文化誌』毎日コミュニケーションズ、1990年。
    溜め漉きと流し漉きの技術史、粘剤利用、各地の紙漉き法を検討する際の基本文献です。増田論文でも参照されています。 
  3. 宍倉佐敏『和紙の歴史―製法と原材料の変遷』印刷朝暘会、2006年。
    古代紙から中世紙にかけての漉き方の変化、「半流し漉き」の議論に関係します。 
  4. 文化庁編『無形文化財記録工芸技術編3 手漉和紙―越前奉書・石州半紙・本美濃紙』第一法規出版、1971年。
    流し漉き時の簀桁操作や製造工程を実証的に扱う重要資料です。 
  5. 「わが国和紙産業の現状と越前和紙」越前和紙現地実査報告書。
    手漉きと機械漉きの差を、抄紙工程と乾燥工程の二点から整理しており、今回の論点に非常に近い資料です。 

University of British Columbia, Papermachine – Pressing.
プレス部における脱水、圧密、密度・厚さ・強度への影響を扱います。プレス部の実用的な乾燥分は概ね35〜55%と説明されています。 

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