【雁皮種子の発芽と移植】

雁皮紙をつくり続けるためには、紙漉きの技術だけでなく、原料となる雁皮を山に残し、次代へつなぐ仕事が欠かせません。

ここでは、採種、越冬保存、発芽促進、播種、移植、定植まで、実際に行っている雁皮苗づくりの手順を記録します。

地域や気候、雁皮の系統によって条件は異なるため、これは一つの実践例としてご覧ください。この実験は「今井三千穂:福井の森の研究から」をお手本にして実施しました。

ただ、初めの雁皮がありませんでした。岡山の井上さんに雁皮の採取の方法を学びましたが、皮はありますが、苗はなくどのようにして増殖をするか、同業に当たりました。

四万十町の島岡さんに植栽のテクニックを聞きました。越前石川さんより苗木を送っていただきました。地元では阿波市の正木さんには小学生の頃に小遣い稼ぎに雁皮を採取したとの話を聞きながら、裏山に出向き雁皮を実際に見学しました。

その明多意神社の山道に雑草と一緒に頭をはねられた雁皮を見つけ、ここで絶えるのなら採取して、楮の隣に植えて生育すれば、生涯の役に立つのではと言う思いで移植することを思いつきました。二百株は採取しただろうか?11月から翌年2月頃まで一冬北地山(きたじやま、讃岐山脈の阿波市から香川県東かがわ市の山中)を巡回して採取しました。

山道に生える雁皮。草を刈り取るときに一緒に刈られてしまう。ここではこれ以上大きくはなれない。(阿波市亀底)

いつしか、その苗が黄色い花を咲かせ、秋には黒い実をつけるようになりました。その実から新しい息吹を咲かそうとの試みです。

雁皮播種の方法

①雁皮の花と結実

雁皮の花は、5月上旬から7月上旬位かけて新枝の先に黄色い円形の小花を咲かせます。

1ヶ月もすると結実しますが、別の枝から花が咲き始めます。夏の間中咲いたり、結実したり、それが土の上に落下してどこかに行きます。

初秋に花が終わり、種子は黒く枯れた[1](写真1)ようになり耐えています。

(写真1)雁皮の果実。黒褐色となり、手で握って容易に取れる頃が採採種の目安。

②採種の時期と越冬保管

採取の適時は11月下旬位から、黒褐色になった果実を手で握ると簡単に取れます。それが取りごろです。


採取した果実は布袋に入れて、通気性の良い場所を採取した果実は布袋に入れて、通気性の良い場所を

選び土中に埋蔵します(写真2)。腐敗して布が破れるので台所で使うナイロンメッシュの袋を使うのが良いようです。

(写真2)前年12月に種子の入った袋を埋めておきます。翌春に掘り起こして播種の準備をします。

採取後の保管方法

  • 採取した果実は通気性のある袋に入れる。
  • 袋は土中に埋め、冬を越させる。
  • 布袋は腐敗することがあるため、台所用のナイロンメッシュ袋などが扱いやすい。

③種子の選別と吸水

翌春三月中旬ごろに掘り起こします(写真2)。

ボールに適量水を入れ、種子を洗うように混ぜます。浮く種子と沈む種子に分別します。

手で揉み洗いながら浮いてくする種子(c)は除去します。沈殿した種子は取り出し新聞などの上に並べ乾燥します。

その後、種子に吸湿して発芽を促進するために水中に八時間以上浸漬します。水中に入れて浮いてくる種子(a)と沈む種子(b)とに分離します。(b)の沈む種子を使用します。

そして(b)の沈んだ種子をそのまま引き続き発芽促進処理を行います。

④湯温による発芽促進処理

今井三千穂氏は「福井の森の研究から」の中で、発芽促進処理法は温熱湯処理が効果的であるとしています。

八時間以上吸水させた種子を55℃の温湯に60秒間又は60℃に15秒間温熱湯処理をしてから播種する方法を参照しました。

⑤播種床の作り方と播種

播種床は通気性の良い砂質壌土が適しています。苗畑を構築することも考えられるが、多量でないのであれば苗ポットに苗飼育用の壌土を購入して準備するのも良い。今回はこの方法で試してみた。

適期は桜の咲き始める3月末か4月初め頃です。

底に大型の赤玉を敷き、その上に種蒔き用の土を八分目ぐらい入れ散水をして土を湿らしました。その上に種子を7〜8粒適当に万遍なく撒き散らし、種蒔き用の土を被せました。そして再び散水をして一応の作業の終了としました。 まだまだ、寒暖差が大きいので、苗床はビニールハウスの中に設置しました。

⑥発芽後の管理(芽出し)

播種して早いものは、十日余で芽を出し始めます。灌水さえ怠らなければ、順調に成長します。成長が好ましくない様であれば追肥も考えられますがほとんど必要はない様です。

⑦ポットへの移植

梅雨の始まりから終わりの頃にかけて芽を出し始めます。(右写真6月11日)

梅雨時に大型のポットに小分けのために移植をします。

大きめのポットに一株か二株づつ植え替えます。

腐葉土をポットに入れ、散水を十分にします。

その中に穴を開け植え込みます。苗は思いのほか白い根を張っていますので、痛めないように植え込みます。

最後に茎元に土を十分被せておき再び散水します。

日差しがきつい時は寒冷紗で覆うようにして下さい。

続いて、日課になるであろう散水対策が必要です。

散水をして表面が乾かない様にします。自動散水装置を設置して、日中に一時間ぐらい噴霧による散水をする様にタイマーを設定しています。 夏の終わり頃には、散水は1週間に一度ぐらい、紅葉が始まると停止します。

⑧越冬と翌春の山への定植

11月になると紅葉が始まります。黄色味の強い朱のように紅葉します。

そのまま落葉を待ちます。来春までそのまま放置します。

⑨翌春桜の前に山に定植します。

若木の活動の始まる前の、新芽が出る前に移植します。

霜などを考慮すれば3月初め頃までに移植しま す。

土地は南向きの半日以上は日光の当たる排水の良い場所を選びます。

大きめの穴を掘り、バケツの水を入れて、泥水状に錬ります。

ポットからそのまま移します。出来るだけポットからそのまま出して、形を崩さないようにします。

周囲には土地を被せ踏みつけ、再度水を周囲に撒きます。

⑩栽培密度と製紙用原料としての目安

製紙で使う雁皮は、直径3cm強、樹齢4年以上が良好とされています。

今井氏の植樹間隔の研究では、10a当たり4,000本で50cm間隔が最適密度とされている。

⑩獣害の対策

鹿は楮の若芽を食する。雁皮をあまり好ましく思っていないようで、食害はほとんどない。雁皮やミツマタには、ジンチョウゲ科に特有の芳香性・苦味・刺激性をもつ成分が含まれ、枝葉や樹皮には独特の薬品のようなにおいがある。これらの成分や繊維の性質は、虫に食べられにくい一因と考えられる。

しかし、猪が根元近くのミミズを探しに来て、根ごと掘り起こすことがある。そのため、猪対策として、雁皮畑の周りに侵入防止の網を設置しました。

雁皮は、播けばすぐに製紙原料になる作物ではありません。発芽から苗づくり、移植、定植を経て、製紙に適する太さに育つまでには数年を要します。

しかし、採取だけに頼るのではなく、種子から苗を育て、山に戻していくことは、雁皮紙を将来へつなぐための基礎になります。紙を漉く仕事と、山で雁皮を育てる仕事は、本来切り離せないものだと感じます。

種子以外の増殖方法――根分けと挿し木の可能性

雁皮を増やす方法は、種子を播く方法だけではありません。親木の周囲では、地表近くを横に伸びた根から新しい芽が出ることがあります。とくに日当たりがよく、草に覆われすぎず、土が極端に乾かない場所では、親木の根元から少し離れた場所にも小さな芽が現れます。

この芽は、親木から伸びた根につながっている場合があり、十分に根がついていれば、翌春に掘り取り、親木から切り分けて植え替えることができると考えられます。雁皮の栽培では、種子から育てる実生繁殖だけでなく、無性繁殖法も研究され、栽培可能性が検討されてきました。福井県の研究では、雁皮について有性繁殖と無性繁殖の方法が解明され、苗木による植栽試験が行われています。

根分けによる増殖

根分けは、親木の周囲に出た芽(図1)を、その芽につながる根とともに掘り取って植え替える方法です。 作業は、そのまま、落葉後から芽吹き前までの一冬を越して休眠させます。翌年三月上旬ごろの根分が適すると考えられます。

  • 芽の周囲を少しずつ掘り、どの方向から根が来ているかを確かめる。
  • 芽の直下だけを切り取るのではなく、できるだけ根を長く残して親木から切り分ける。
  • 掘り取った苗は乾燥させず、すぐにポットまたは定植地へ植える。
  • 植え付け後は十分に灌水し、初年は強い日差しと乾燥を避ける。
小根から成長した若芽、6月末頃になると梅雨の湿りっけと共にここぞと出てくる。(和紙会館前の見学用畑)

根分け苗は、種子から育てた苗よりも初期の生育が早い可能性があります。また、優良な親木から増やせば、その親木の性質を受け継ぐ苗を増やせる点も利点です。

ただし、根分けを繰り返しすぎると親木の勢いを弱めるおそれがあります。一株から一度に多く取らず、親木を残しながら少しずつ試すことが大切です。

挿し木による増殖

雁皮については、根分けに比べて挿し木の成功条件はまだ十分に確かめられていません。枝を挿して発根させる方法は、ミツマタや他の低木類では試みられますが、雁皮では枝の状態、採取時期、発根促進剤、用土、水分管理などによって成功率が大きく変わると考えられます。

試験的に、親木を傷めない範囲で、休眠期の一年枝を用いる方法と、梅雨期の柔らかい枝を用いる方法を分けて実験をしてみました。

見かけ上は若芽が出てくる。土の中では思ったほど根は成長していない。夏の暑さに参ってしまう。継続した管理が必要。にわか百姓には尼が重いやり方。
  • 冬から早春に、一年枝を10〜15cm程度に切る。
  • 下部の芽の近くで切り、水に数時間浸ける。
  • 発根促進剤を用いる場合は、少量の試験区だけに使う。
  • 鹿沼土、赤玉土小粒、バーミキュライトなど、水はけと保水性のある用土に挿す。
  • 強い直射日光を避け、乾燥させない。
  • 発根の確認は、枝を引っ張らず、新芽の伸びや根の状態で判断する。
  • 挿し木は成功すれば短期間に苗を増やせると考えましたが、如何せん、なまくら百姓のせいか、挿し木後の管理不行き届きで、25%ぐらいの歩留まりしかありませんでした。
  • 下部の芽の近くで切り、水に数時間浸ける。
  • 発根促進剤を用いる場合は、少量の試験区だけに使う。
  • 鹿沼土、赤玉土小粒、バーミキュライトなど、水はけと保水性のある用土に挿す。
  • 強い直射日光を避け、乾燥させない。
  • 発根の確認は、枝を引っ張らず、新芽の伸びや根の状態で判断する。

挿し木は成功すれば短期間に苗を増やせると考えましたが、如何せん、なまくら百姓のせいか、挿し木後の管理不行き届きで、25%ぐらいの歩留まりしかありませんでした。

これからの雁皮畑づくり

総じて、経験から判断すると種子を採取して播種をするのが一番歩留まりが良いのと多量に栽培できます。その次に讃岐山脈から移設するのがあまり骨の折れない作業のような感想です。

雁皮畑を維持するためには、種子による更新、根分けによる増殖、必要に応じた挿し木試験を紙漉き場の環境に合わせて組み合わせることが重要です。

種子からの苗は遺伝的な幅を保つことができます。一方、根分けや挿し木は、よく育つ株、繊維が良い株、病害や乾燥に強い株を残していく方法になります。

種子の採取、今年は30本の木から40g取れたろうか。

親木の周囲に自然に出る芽は、雁皮がその場所の土、水分、日当たりに適応しながら生き残ろうとしている姿でもあります。その芽を観察し、必要な分だけ苗として育てることは、山採りに頼らず雁皮を将来へつなぐための一つの方法になるでしょう。苗木や成木の管理は楮と比べるとほとんど無きにも等しいように考えます。何をしなければいけないかというと草取りだけです。それも工夫をすれば年間1週間も費やさなくて良いように経験しています。

雁皮をめぐる調査は、紙の歴史をたどることから始まりました。しかし調べるほどに、雁皮紙の未来は山の中にあることを感じます。紙を漉くことと、雁皮を育てること。その二つを切り離さずに続けていくことが、これからの雁皮紙づくりに必要なのだと思います。

先人の文献は多々ありますが、今井三千穂先生の「福井の森の研究から」は大変参考になりました。と言うよりも、ほとんど読みながらその通りすれば翌年は生育して花を咲かせた。2年後には種子の収穫が思いの外できるようになった。素晴らしい研究論文を残していただいたと感謝しています。

【参考文献】

今井三千穂:福井の森の研究から

楳原寛重:雁皮栽培録

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